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第53話 巫蠱の子

Author: 霞花怜
last update Huling Na-update: 2025-07-17 18:00:52

 九月になったとはいっても、まだ熱さが卦ぶる季節だ。エアコンがきいた部屋に慣れてしまうと、外に出るのが億劫になる。

 そんな真昼間に、直桜は待ち合わせのため、外出していた。

 久伊豆神社の境内は木が生い茂り、木陰は割と涼しい。そういう場所にベンチが置いてあったりするので、涼むには良い場所だ。

 真夏の昼間は人も少ないので、境内に放し飼いにされている鶏や孔雀の観察がのんびりとできる。

「直桜、お待たせ」

 アイスコーヒーを片手にベンチに座る直桜に楓が駆け寄った。

 直桜も手を上げて楓に応える。

「呼び出したのに待たせて、ごめんね」

 直桜の隣に腰掛けて、楓が申し訳なさそうな顔をする。

「こっちこそ、セミナー蹴って、ごめん。連絡もしなかったし」

 忍の所に籠りっきりだったから、すっかり忘れていた。

「本当だよ。来ないし連絡つかないし、心配したんだよ。はいこれ、教授がくれた資料、預かってたんだ」

 分厚い紙の束を渡されて、げんなりする。

「これって、レポートとか、無いよね」

「ないよ。俺たち、もう卒論も出来上がってるし、今更宿題とか出ないよ」

 ほっと、安堵の息を吐く。

 楓がおかしそうに笑った。

「最近の直桜はバイトで忙しそうだって陽介も心配してたよ。俺も直桜のこと誘えなくなって詰まんないしさ。夏休み終わったら、バイトも辞めるの?」

「んー。続けるかな。夏休み終わっても、大学あんまり行かないで済みそうだし」

「まぁね。単位ほとんど取っちゃってるし卒論終わってるし、やることないかもね」

 夏には珍しい爽やかな風が吹き流れる。

 暦の上では秋なのだと

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